というわけで未練がましく、実況パワフルプロ野球サクセススペシャルの話を少し交えるんだけど、とは言え今回はゲームの中の話じゃなくて散財のお話。(ヲイ)
私、この12月に入ってからちょーっと、久しぶりになかなかの課金をしております。
その課金先がこちら!
知る人ぞ知る、コアなファンなら荒木飛呂彦先生にもひょっとしたら負けないかもしれない平松伸二先生著作品3シリーズです。
元々『黒い天使たち(ブラックエンジェルズ)』の頃からのファンだった私ですが、先生も御年67歳(来年たぶん68歳)になられる、もはやベテラン漫画家。
んで。
この人の作品のほとんどは一部を除くと勧善懲悪ものが多く、それも時事に絡めてきたり、実在の「悪徳集団」の名前を変えて登場させて叩き潰したり、とその爽快感と迫力が私を虜にしているんだけど、平松先生作品については別の機会に語るとしまして、今回はサムネの作品。
こちらも既刊すべて購入いたしました。
基本は十代若夫婦によるイチャコラコメディです。
なお、課金額に直してタイトル通り、サクスペの、今年6月までの課金額月平均と比べると、それでも1/2に達したってところですね。
ちなみに今だから語りますけど私のサクスペの月最大課金額は60,000です。何年何月だったかは秘密。🤐
それと比べるとまあマジで少ない額でこれだけの冊子(と言っても電子書籍版)を買えたことでしょうか。
ううん...サクスペ、というかソシャゲ課金の恐ろしさよ...😱
んで。
実は私は。
この『トニカクカワイイ』シリーズ。連載開始当初から数年はまったく興味がなく、それでも、畑健二郎先生の作品だったから。
あの『ハヤテのごとく!』の作者である畑健二郎先生の作品だったから。
『ハヤテのごとく!』第1話を読んで、久しぶりに「この漫画スゲーおもしれ―!」と興奮を覚えたマンガを描いてくれた畑健二郎先生だったから。
1話目だけはマジマジと読んだんですけど、どうも雰囲気が『ハヤテのごとく!』と変わらなかったので。
その後、数話はコンビニで立ち読みの流し読みして、結局、ハヤテとなんも変わらんテイストだったんで。
もうええわ、とそれこそ連載3年以上は一切見ていなかったんだけど。
転機は、たまたま見かけた16巻に訪れました。
それがサムネで、こちらが表紙!
正直ビビりました。
畑先生ってこんな絵も描けたんだと戦慄しました。
私は個人的に、気に入った漫画家や作品があって、最終回を迎えた後に次回作が出ても「前作と変わらない雰囲気」を感じた時は、ほとんど見ないんですわ。
例外はもちろんあって、その作品に、迫力が感じられなければ、ですけどね。
その点で、『トニカクカワイイ』は第1話からして、どう見てもハヤテと同じだし、違いがあるとすれば、最初から勘違いじゃなくてイチャコラさせたかっただけにしか見えんかったしで、ギャグの入れ方も進み方もまるで同じだったんで、本気で見る気になりませんでした。
同じようなことは実は最近あって、ねこぐち先生著『天野めぐみはスキだらけ』は舞台が地元ということもあって好意的に面白おかしく完結まで見させていただいたんだけど、次回作の『このマンガのヒロインは守崎あまねです。』は、これまた前作と同じ雰囲気で、しかもヒロインのデッサンもほとんど同じで。でも違いは前作主人公と違って結構欲望に忠実なこともあってどうも入り込めなかったなと、これまた1話切り、数話読み飛ばし後、まったく読まなくなって、気付かない内に連載終了してました。
次回作も少年誌でやるなら、先生の強味であるむちっとした可愛い女の子は残しつつ、でも雰囲気は変えることをお勧めします。
例えるなら高橋留美子先生なんだけど、『うる星やつら』、『らんま1/2』と似たようなラブコメテイストからの、バトルアクションがメインの『犬夜叉』はかなり良かったんで、ねこぐち先生もそうなってほしいなと。
はてさて話を『トニカクカワイイ』に戻しますと。
そういったわけで、こういう身に迫るような画力により、私は16巻以後を見続けているんだけど。
その16巻。
とてもヒロインの顔じゃないし、
ヒロインの台詞じゃない。
この目つき、すでに人間じゃないレベルで。
こういうのを描ける、こういう展開が混ざってくるのであれば。
『トニカクカワイイ』は読み続けようという気にさせてくれました。
特に、時々挟まる『過去編』は『本筋である現在編』とのギャップが凄まじくて、読んでいて『今後』を期待させてくれて、そして、主人公はどうやってヒロインを救うのか、で、その先はハッピーエンドなのか、それともビターエンドなのか、それが気になるレベルの作品に進化したなぁ、とマジで思ってます。
現在編ですと、『異様な目つき』でもこのレベルまで落ちますからね。
はてさて、このヒロイン、『ハヤテのごとく!』でいうところの『誰』の立ち回りなんかなぁ、と。
多分、一番近い感じがするのはこのキャラなんだけど。
んまあ、これはどんな漫画家にも言えるんだけど、どんな作品になったって、その物語には「いつものメンバー」が顔をそろえるわけで、そういった意味ではこの『トニカクカワイイ』も、主人公にしろヒロインにしろ取り巻きにしろ、立場が変わっただけで『ハヤテのごとく!』とそう変わらないんだけど。
逆にそこを想像しながら見るのもマンガの楽しみなんじゃないかなと。
でも16巻の表紙と対になるカットもちゃんとあって、それがこちら。
あの表紙からこれはずるいと思った。
いや、正確にはうますぎてやられたな、って感じ。
私は昔「ライトノベル研究所」ってサイトがあって、そこのお題に「さようならで始まって、ありがとうで終わるお話を作ろう」ってのがあって、私もそれに挑戦したんだけど、なんとなく、なんとなくだけど、そのお題と似ている気がするこの2つの構図だったなと。
しかもそれは1巻でまとめちゃってるから余計プロの凄さが際立つんだ。
でもさ。
「さようなら」で始まって「ありがとう」で終わるショートストーリーを作ってって聞いたらどう思う?
実はここに作家志望の人と一般の人との違いがあって、一般の人だったら、この「さようなら」に対して「ありがとう」はそのまま別れ際のお礼って受け取って書いちゃうんだよ。
でもね。作家志望だと違うんだ。
「サヨナラ」は絶望、「ありがとう」は希望ってのがまず真っ先に浮かんで、最初は暗い話で始まるかもしれないけれど、ラストはハッピーエンドにしようとするし、そういう話を作るんだ。
もちろん、私もそうしたよ。
そうだなぁ。どんな話かは折り畳んで入れておくから見てくれると嬉しいかな?
ただ、その話。今から15年前に作ったものなんで結構拙いからその点考慮してくれると嬉しいね。
さて。
この『トニカクカワイイ』は現在25巻で続刊中。いったい話の内容的には中盤に差し掛かっているのか、それとも後半に向かっているのかは作者である畑健二郎先生にしか分からないんだけど
『ハヤテのごとく!』の時のように、どうしようもクズにはそれ相応の罰が待っていて然りなんだけど。
でも、その他のキャラたちは全員、何らかの形でちゃんと掘り下げてエンディングを迎えたように。
この『トニカクカワイイ』も、ある意味『大団円』のENDが待っているといいなと。
と言っても。
この畑先生。
これはあくまでも私の『ハヤテのごとく!』と『トニカクカワイイ』を読んでの推察になるんだけど。
根本的に「だらだら」続けるタイプの人だから「シリアスシーン」は明らかに苦手で、長続きしない、それも「話」どころか「コマ」単位で長続きしないように思えるので、そう考えるとハヤテ同様、こっちも結構長くなるかもしれないなぁ、と。
ただ、週刊少年サンデーは週刊少年ジャンプと違って相当人気アンケートがヤバいことにならない限りは、打ち切りにもかなり寛容なので、大体の作品は打ち切りエンドになったとしてもちゃんと「完結させる」体は取ってくれる出版社なので、ある程度の「完結」は見せてくれると思いますよ。
もっとも。
気付いている人は気づいているんだけど、最近の週刊少年サンデー。
ほぼすべての作者が2週ないし3週に1回は休みを与えられるようで、本誌自体もジャンプやマガジン、チャンピオンと比べても毎週50ページ、ヘタすれば100ページはは少ない状況に陥っているから廃刊になる前に何らかの道筋は経てておいた方が良いかもしれない気はする。
てことで、ここからが私が15年前に書いたオリジナルSS(ショートストーリー)です。
壮大に広い心と寛大なる温かい目で読んでくださるとありがたいです。
Dead or Alive
――ごめんなさい――パパ――ママ――
子が親より先に死ぬ――
それが、この世で一番悪いことで親不孝なこと。
小さい頃からそう教えられてきて、そしてそれはその通りだと信じて生きてきたあたしだけに、心の中で、両親に謝罪の言葉を並べていた。
そう。
今のあたしは、海辺の岸に立つ自殺志願者に成り下がっていた。
ことの起こりはつい最近。
それも一週間前のことだった。
本当に些細なこと――と、あたしは思っている。
それまでは、まあ自分が可愛いかどうかは別にして、周りからは『明るくて活発で分け隔てしないから』と、大勢の友達に囲まれていた。
学校生活も楽しかったし、部活も一生懸命打ち込めた。
成績は中の上というところだったけど、間違いなく、どこにでもいる、誕生日は早めなので中学3年に上がると同時に15歳になったばかりの普通の少女だった。
しかし――
「僕と付き合ってくれないか――」
一週間前の土曜日の放課後。
桜の木の下で、ある男の子からそう告白されてから周りの状況は一変した。
もっとも、その男の子が学校で女子生徒に一番人気がある人ってことは問題ではないと思うし、彼がスポーツ万能、頭脳明晰で新生徒会長に全校生徒の満場一致で選ばれたことも大した理由にはならないだろう。
多分、問題は、彼には幼馴染の女の子がいたということではないだろうか。
それも、その女の子は生徒会の副会長で、姉御肌なものだから、女子生徒の大半が彼女には逆らえない。
週が明けた月曜にはもう、あたしの周りから女の子の友達は誰もいなくなってしまっていた。
「僕が彼女の誤解を解いてあげるよ――」
火曜日に、優しくそう言ってくれた彼の言葉を信じて、あたしは今日の金曜日を迎えたのである。
明日からGWということで、世間は活気と賑わいで溢れ返っているというのに、あたしは夕暮れ、海岸に沈んでいく真っ赤な太陽の光を浴びながら、一人佇んでいる。
あたしが今、立っているのは浜辺ではない。
海岸から迫り出している、もう使われなくなってしまった寂しくて古い船着場。足元にはもう白のスニーカーをきちんと揃えて置いてある。
すでに満潮を迎えて、波が素足を少し濡らし始めていた。
――1人ぼっちのあたしには似合いの場所かも……――
心の中で切なくそう呟いた瞬間、瞳からは、また涙が溢れてきた。
――もう……いやだ……――
蒸し返してきた辛さと苦しさが、あたしをしゃがみ込ませてしまっていた――
今日の放課後、彼から呼び出された。
――あの子のこと、なんとかなったのかな?――
ここ数日の周りの反応の冷たさに、相当へこんでいたあたしだけに、逸る気持ちを抑えることなく、大きな希望を持って、告白された桜の木へと駆けていった。
確かに、あたしを呼び出したのは彼だった。
それは間違いない。
なぜなら、彼が昼休みにいつもの優しげな笑みで声をかけてくれたから。
しかし――
事態は、あたしが想像していた光景を用意してはくれなかった……
その場所に着いたとき、彼は笑顔であたしを迎えてくれた。
もっとも――
その笑みは、いつもの優しさ溢れる笑みではなく、どこか狂気に満ちた恐怖すら感じる笑みではあったが――
……もしかしたら人望を得るためにはそれなりの報酬が必要だったのかもしれない。
ひょっとしたら、今日までの一週間のことは全て仕組まれていたのかもしれない。
怯えるあたしの周りを、彼と同じような笑みを浮かべた男子生徒に取り囲まれて――
――!
しゃがみ込んだまま思いっきり頭をぶんぶか振った。
思わず、その後のことが脳裏に浮かんだので振り払うために。
「もう……いいや……」
どこか自虐的な笑みを浮かべて、ゆらり、と立ち上がるあたし。
一度、海の向こうの地平線に沈んでいく夕陽を見つめる。
早くおいで――と言っているかのように、夕陽は静かにあたしを照らしてくれていた。
不思議とためらいはなかった。
まるで、散歩にでも行くかのような足取りで一歩目を――二歩目のない一歩目を踏み出そうとしたとき、
「泳ぐにはまだ早いんじゃないかな?」
突然、背後から、なんだかのんきな声をかけられた。
「え?」
とりあえず、踏み出そうとした足を引っ込めて肩越しにあたしは振り返る。
そこには一人の少年が佇んでいた。
上背は大きくもなく小さくもなく、黒の学ランに黒の学帽、学帽を深くはめているのと結構伸ばしている前髪のためか、少年の顔はよく分からない。
学帽についている学章も夕陽の照り返しで良く分からない。
一つだけ分かることといえば、あたしが通っている学校の生徒ではないということくらい。なぜならウチの学校の制服は薄い緑のブレザーだからだ。
「あなたは……?」
少し、戸惑った声で問うあたしに、
「君こそ何しようとしているんだ? いくら暖かくなってきたと言っても、泳ぐにはまだ早いだろ?」
彼は、妙に雑談っぽい口調で返してくる。
「な、何って……」
「確かに昼間は結構暖かいけど、夕暮れのこの時間からはまだまだ冷えるんだ。それなのに、海なんかで泳いでいると風邪じゃすまなくなるかもしれない。泳ぎたいなら、近所のスポーツセンターの温水プールの方がまだいいと思うぞ」
……な、なに? なんなの? この人……
さっきまでの吹っ切った諦めムードもどこへやら。
あたしは、突然現れた、この少年の言葉を、目を点にしながら聞いている。
「それに、そんな服着たままだと、服が水を吸って非常に重たくなる。これから暗くなるし、視界も悪くなるからヘタすると、と言うか、ヘタしなくても溺れるし――」
「ちょ、ちょっと! あんたはいきなり何を言ってるのよ! あたしは別に溺れる心配なんてしてないわよ!」
くどくど続ける彼に、さすがに声が出た。
こちらは今から死のうとしているのに、このまま彼に話をさせていたら、間違いなく、その気が完全に削がれてしまう。
「え? この暗がり、その海の深さ、んでもって服が水を吸って重くなっても、泳ぐ自信があるってことか? でも、寒さ対策はどうするんだ?」
「ちっがぁぁぁう! というかあんた! 心配している問題からして違うわよ!」
「は?」
まだ彼は、なんだか状況を理解していないようである。
それとも、もしかしてすっとぼけているのだろうか……?
あたしは手を胸に当てて、表情には不敵な笑みさえ浮かべつつ、きっぱりと言い切った。
「あたしはね――死のうと思って、ここに立っているの――だから――溺れる心配なんてしていない――」
――!
彼の表情が一瞬こわばった。
ふ――ようやく事態の重さを理解してくれたようね――
なぜか勝ち誇ったように心で呟くあたし。
「な……」
彼の愕然とした声が聞こえてきた。
「なんて……」
「ん?」
――『なんて馬鹿なことを……やめるんだ!』とでも言うつもりかしら? ま、もっとも、そんな使い古された言葉くらいであたしを説得できると思ったら大間違いよ――
などと、先読みして考えているあたしなのだが――
彼のセリフはさらに斜め前を行っていた。
「なんて勇気ある死に方を選ぶ人なんだ!」
ざぼーん!
盛大な水しぶきが上がる。
思わず、ずっこけてあたしは海に落ちてしまったのだ。
「って、あんた! 驚くポイントも間違ってるし!」
いくら自殺志願者とは言え、さすがに、こんな格好悪い原因で海に落ちて死ぬのは嫌である。
びしょ濡れになりながら即座に這い上がる。
「え? だって、溺死って、死に方としちゃ、最も苦しい死に方ベスト3に入るって聞いたことがあるし。だから、よく、そんな方法を選択するなぁ、って、思っても不思議はないじゃないか」
「あ、あのねぇ~~~」
なんだか体の中からぐらぐら煮立つものを感じてきた。
こいつはいったい何者なのよぉぉぉ!
心の中で絶叫するあたしを尻目に再び、彼はどこか感心する口調で続けていた。
「なんせ溺死ってのは、呼吸ができなくなるわけだし、呼吸ができないと、どうしても本能的にじたばたもがき苦しむだろ? でも、這い上がれなくて、どんどん沈んでいく。沈んでいけば、暗ぁぁぁくなっていくし、なんだか重くもなっていく。結局、苦しくなって息を吸い込もうとするんだけど、入ってくるのは水だけ。それも海だから凄く生ぬるい感覚のしょっぱい水。これで充分気持ち悪くなって嘔吐しちゃうだろうし、意識を失うまでこの世の地獄とも思える苦しみが――」
「やめぇぇぇ!」
あたしは大声で彼の話を制止した。
「どうした?」
「どうした? じゃ、なぁぁぁい! これから、海に飛び込もうとしている人間にそんな話しないでよっ! せっかく付いた決心が鈍るじゃないっ!」
恨みがましい視線で、引きつり笑いを浮かべながら彼に詰め寄り、思いっきり絶叫するあたし。
「う~ん……そうは言ってもなぁ……」
なんだか彼は本気で困ったような声で、頬をポリポリかいていた。
はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……
気が付けばあたしは肩で息をしていた。
「あのさぁ……あんた……あたしの自殺…止めに来たんじゃないの……?」
「は? 止めてほしいのか?」
――!
彼の何気ない一言に、あたしは、いつの間にか、自分の中から『自殺する』という意識が薄らいでいたことに気が付いた。
「ち、違うの?」
再び問うあたしの言葉はどもっている。
「だって、自分で決断したことだろ? それを他人がとやかく言う権利は――」
「そ、そうかもしれないけど、自殺しようとする人を見ると、普通の人なら止めるわよ。あなたは……?」
「君も止める?」
………………………………………………………
彼の問い返しに、なぜか気まずくて答えに詰まるあたし。
確かに――
一週間前のあたしなら『自殺なんて馬鹿な真似は止めて!』と言って止めたことだろう。
しかし、自殺する側に立ったあたしに止める権利はあるだろうか――
「じゃ、じゃあさ……あなただったら、何て言って、あたしの自殺を止めてくれる?」
どういうわけか、あたしはそう問いかけていた。
多分、彼にあたしを止めてほしくなったんだと思う。
あたしの中から、もう死んでしまいたい、という気持ちが無くなったわけではない。
彼が、あっさりと『止めないよ。 死にたいなら死んだら?』と言ってくれれば、彼の所為にするつもりはまったくないが、今度こそ迷わず死ぬ方を選択するだろう。
どこか切なげにあたしが見つめる先、彼はまっすぐあたしを見つめていた。
彼が――静かに口を開く――
「日を改めてくれる?」
「……は?」
一瞬、彼の言った意味は分からなかった。
「えぇ……っと…今なんて……?」
思わず聞き質す。
「だから、日を改めてくれるかい?」
「はい?」
止めているの? それとも止めてくれてないの?
彼の言葉の意図が理解できないあたしは、目を点にして彼を見つめ続けていた。
そんなあたしに、彼は困った笑みを浮かべている。
「いやなに。日さえ改めてくれれば、今度は俺がここに来るとは限らないわけで、見殺しにした、とか言う引け目を感じることないからさ」
彼の言っている意味がなんとなく理解できて――
ぷっ……
あたしは思わず吹き出した。
「どうした?」
「あはははははははは。なぁんだ。あなたも結局はあたしの自殺を止めようとしてくれてたんだ」
「う゛……」
あたしの笑いに、彼はバツの悪い呻きを漏らす。
そうなのだ。
彼は最初から、あたしを止めに来てくれていたのだ。
しかし、おそらく、彼が見たあたしの後姿は、普通の自殺制止の謳い文句では、止めることができないと感じたのだろう。
だから、意味不明――ではないが、素っ頓狂に感じる話をして、あたしの決意を削ぐ方を選んだのだと思う。
よくよく考えてみれば、彼の言葉は、海に落ちたときの苦しさを強調していた。
誰だって、あんな話を聞かされれば、少なくとも、海に身投げをする自殺は躊躇ってしまうだろう。
切羽詰ったような声で真剣に言っていたなら、明らかに『止めに来た』ということが分かってしまって逆に決心を強固なものにしてしまうかもしれない。
しかしもし、どこか的外れのように聞かされたら?
今回、あたしの決心が揺らいでしまったのは、自分自身で海に身投げした時の状況を想像してしまったからである。
「分かった。あなたに免じて、今日、自殺するのは止めとく」
静かな笑みを浮かべつつ、瞳を閉じて、あたしは彼の横を通り過ぎた。
すれ違った瞬間、彼がはにかんだ苦笑を浮かべているような気がした。
彼はあたしを呼び止めない。振り向きもしない。
だから、あたしも振り向かない。
でも、彼のおかげで、気持ち的には凄く吹っ切れた。
今日、彼に会うまでの自分のことが、どこか他人事のように、もう過去の出来事になってしまっていた。
見上げてみれば――濃い藍色に染まった空に星が瞬き始めていた――
吸い込まれてしまいそうなくらいの真っ青な空、ふわふわで上質の綿菓子を連想させる白い雲、周りを明るく強く照らす灼熱の太陽。
夏の浜辺と言う場所であれば、その全てが映える。
あの日から三ヶ月。
夏を迎える前に、あたしはもう自殺願望からは解き放たれていた。
何のことはない。
あの日、家に帰ってみれば、突然、父親の転勤で引っ越すことが決まっていた。
どうやらあたしが下校した後、両親が転校届けを出したらしく、GW明けにすぐ、あの町を去ったのだ。
だから、あの日以来、学校に行く必要がなくなっていた。
これだけでも結構、助かったと思ったのだが、今度の転校先は遠く離れた女子校。
それも、高校、大学とエスカレーター方式なので、ある程度受験勉強からも開放されたし、男女の縺れの関係も、少なくとも学校内では心配が要らない。
新しい友人もできて、今日は、みんなで海に遊びに来ていた。
歓声と笑い声が多数こだまする。
「あ。ちょっと、あたし、浜辺で休んでくるね」
「あははははは。今日の綾香、張り切りすぎてたもんね♪」
「少し休んだら、また来てよ?」
周りの笑顔に、あたしは苦笑を浮かべて、浜辺のビーチパラソルの下でしゃがみこんだ。
見つめる先で、新しい級友たちがはちきれんばかりの笑顔で遊んでいる。
あたしと目が合えば、みんな手を振ってくれる。
自分の周りに戻ってきてくれた光景に、あたしの表情にも安堵も含んだ幸福な笑みが浮かぶ。
ふと、青空を見上げた。
新しい町に来たとは言え、やっぱり、前のことがたまに頭に浮かんで塞ぎこみそうになることもある。
時々、あの一週間のことを夢に見ることさえある。
そんな時、あたしが浮かべたのは彼のビジョンだった。
彼との、あのわずかなやり取りを思い出して、気を持ち直していた。
夢の中では、どういうわけか、彼だけはあたしの傍にいてくれた。彼だけはあたしを助けてくれた。
あたしの自殺を止めてくれた彼。
名前を聞いていないことに気が付いたのは、引越し先の荷物が全て片付き、一段落付いた後だった。
彼がいなければ、今のあたしは絶対になかった。
現実ではあたしは振り向かなかったけど、夢の中だと、あたしはもう一度彼に声をかける。
『ありがとう』とお礼を言うために。
その度に、彼は、あたしが自殺を思いとどまった時に見せたような気がしたはにかんだ苦笑を浮かべてくれる。
そして夢から覚める度にこう思う――
――やっぱり直接言いたいな――
いつしかあたしはそう思うようになっていた。
「どうだ? やっぱ泳ぐなら夏だろ?」
――え!
突然、背後からかけられた声。
聞き覚えがある――どころではない。
決して忘れることのなかった声。
あたしの全身が感激で小刻みに震えだす。
いったいどうやって、あたしがここに引っ越してきたことを知ったのか――なんてどうでもよかった。
「うん――」
自分でもはっきり分かった。
振り向かないけど本当に自然と肯いた、嬉し涙が浮かんだあたしのはにかんだ顔の頬が少し赤らんだことが――
Dead or Alive(完)
(独白)
ちなみにこのお話なんだけど、とある漫画家の先生(実在する先生だし、商業誌にも何本か載せてるよ)からは冒頭がちょっと重すぎるから、と指摘を受けたのが反省材料だったね。なんというか「死」を扱うと本当に重くなり過ぎるから、って教えてもらった。んで、その通りだと思う。
でも、この話なんだけど、とある出版社の担当さんが見て私に「もっと長い話を描いてみない?」とも言われた思い出深い話でもあるんです。
んまあ、私は当時、度胸が無くて「その道」に進めなかったんだけどね。今でも後悔してるよ。そしてそれは同時に「ああ。自分は夢を捨てたんだな」って思ってしまったことでもあったんだ...、てね。
だから今、夢を追いかけている人にはそれを伝えたい。
夢を叶える人ってのは、才能がある人とかスゲー努力した人だけじゃない。諦めた人だって、もう一度、心に灯火を再点火すれば叶うかもしれない、と思ってほしい。
だから、「夢を叶えられなかった」ってのは、「夢を捨てた人」の戯言であり、負け惜しみでしかないんだってことだ。
...私みたいな...な。